ご夫婦での過ごし方

四季味亭ふじや宿物語～夫婦旅行編～

あなたのサプライズが嬉しかったのは本当。
だけど私、来月がプレッシャーだわぁ（笑）

あなたのサプライズが嬉しかったのは本当。だけど私、来月がプレッシャーだわぁ（笑）もみじ谷大吊橋には午後すぐに着いた。景色を堪能しながら橋を渡り、そして宿へ向かう道すがら「逆杉」にも立ち寄る。「まぁ大きな杉」「樹齢約九五〇年だと」と主人。

私よりずいぶん年上ね、と笑って旅館へ。今日は誕生日。珍しく主人が予約して連れてきてくれた。中に入るとウエルカムデザートが出される。じんわりと甘いものが体にしみわたって…美味しい。最初の粋なもてなしに、私はご機嫌でお部屋に入った。木の香漂う露天に、そうっと体を沈める。ふうっ…と息をはくと、心地よい風が頬をすり抜けていく。

和室では、何だか落ち着かない様子の主人。どうしたの？と声をかけると「夕食は別室に行くんだ」と背を向ける。身支度を整えて後に続くと、そこは静かな個室風の食事処。輝いた海の幸、栃木県の山の幸が美しく彩られて並べられてゆく。わぁ美味しそうね、と口に運べば、それはまた予想以上の味で…。「こんな素敵なところ知ってたの？」と尋ねると「いや、部下の高橋に、ちょっとな」と口を濁す。そうか、高橋さんに聞いたのね。彼、センスいいものね、とは言わなかったけど「ありがとう、連れてきてくれて」そう言ったのに、心ここにあらずの様子。まったくもう、どうしたってのかしら。

食事を終えて薄暗い部屋に戻る。「電気つけてくれないか」と言われて、ぱちり。「え？ピンクのガーベラ…」華やかな花の色が瞳に飛び込んでくる。そして添えられたカードを開くと【お誕生日おめでとう。いつまでも元気でいてくれ】走り書きのあなたの字が、ぽたり、と涙でにじんだ。「一緒に露天に入るか」と向こうをむいている。ちょっぴり照れながら、２人星空の下、並んで湯に浸かった。「プロポーズの時以来ね。びっくりしたわ。ありがとう」湯の音と、風の音だけがそこにある。それだけで夫婦はつながっている。その幸福に浸っていたけど。あら？来月は主人の誕生日だわ！どうしようかしら…。

Close